大切な人を失ったことを悼む葬儀の場に参加する人は、だれもが非常にデリケートで、傷つきやすい状態にあります。そのため、お互いを労りあうために、さまざまなマナーが生まれました。ここでは「葬儀における言葉遣いのマナー」を取り上げ、遺族・受付・参列者の立場から、それぞれシチュエーション別に解説していきます。
葬儀の言葉遣いの基本
まず、どの立場でも共通している「言葉遣いのマナー」があります。
これは主に下記の4つです。
・重ね言葉を避ける
・直接的に生死を表す言葉を使わない
・死因を聞かない
・宗教によって使っていい言葉、悪い言葉が違う
ひとつずつ見ていきましょう。
・重ね言葉を避ける
葬儀の場では、「重ねる言葉」「繰り返す言葉」は避けます。これは、「不幸が重なること」につながるからです。たとえば「たびたび」「またまた」「再び」「重ね重ね」「次々」などです。これらは、一見するとまったく使わない言葉のように思われます。ただ実際には意外と使われやすい言葉でもあります。たとえば、「(故人)さまには重ね重ねお世話になりました」「次々とお大変なことも起きておりますが、お体に気を付けてお過ごしください」などのような表現は、意識をしていないと口についてしまいかねないものです。
・直接的に生死を表す言葉を使わない
「死んだ」「生きているとき」などのように、直接的に生死を表す表現は避けるようにします。これらは「ご逝去」「生前」などのような言葉に言い換えることが望ましいといえます。
また、葬儀の場では「4」「9」の数字は避けます。「4」は「シ=死」、「9」は「ク=苦」につながる言葉だからです。
・死因を聞かない
参列者や受付の立場で参列したときに、ご家族に亡くなった方の死因を聞くことはやめましょう。若い方が亡くなった場合や自死の場合はしばしばその原因を追究しようとする人が現れますが、死因は非常にデリケートな話ですから、家族から切り出されない限りは聞かないようにします。また参列者同士の間で噂をしたり詮索をしたりするのも、大変失礼なことです。ただしご家族が「だれかに聞いてほしい」という気持ちで話しかけてきたのであれば、できるだけそのお話に寄り添うようにしてください。
・宗教によって使っていい言葉、悪い言葉が違う
日本には信教の自由が認められているため、「どのような宗教の葬儀を行うか」はご家庭ごとに違いがみられます。そして宗教が違えば、使っていい言葉と悪い言葉も違います。たとえばもっとも一般的な追悼の言葉である「ご冥福をお祈りします」という表現は仏教用語であるため、神道の式やキリスト教の式では使いません。また同じ仏教であっても、厳密には浄土真宗ではこの言葉は使いません。神式やキリスト教、浄土真宗では死生観が異なるため、「冥途での幸せを祈ること」を表す「冥福を祈る」という表現は用いないのです。
同様に、「供養」「成仏」という言葉も仏教のみの言葉です。意外なところでは「香典」もまた、厳密には仏教用語のひとつと考えられています。ちなみにどの宗教であっても、「迷う」「成仏できない」などの表現は避けましょう。
【立場別】こんなときはどう話す?
ここからは、立場別・シチュエーション別に「どう話せばいいか」について解説していきます。
Q&A方式で、わかりやすく説明していきましょう。
【家族編・喪主編】
まずは、家族・喪主編です。
Q1.お悔やみの言葉をかけられたときの返し方を知りたい
A1.「ありがとうございます」「生前はお世話になりました」のように返すとよいでしょう。相手からのご弔意はすなおに受け取り、感謝の言葉を述べるようにします。
Q2.通夜や葬式・告別式のときの遺族挨拶はどうすればいいの? 何を話せばいい? 喪主以外の人が挨拶をするのはNG?
A2.通夜や葬式・告別式の挨拶は、基本的に、
・参列してくれたことへのお礼
・(故人のエピソード)
・生前に賜ったご厚意へのお礼
・これからも変わらない付き合いをしてくれるようにという希望
・(この後の日程)
の5つの要素で構成されています。()つきで紹介した「故人のエピソード」に関しては、「簡潔にまとめたい」ということであれば省いても構いません。また同じように()つきで紹介した「この後の日程」は、明日の葬式・告別式日程や通夜振る舞いなどように直近の予定を話すことが一般的ですが、こちらも葬儀会社のスタッフからの案内があるようならば省いても構いません。なお、これらの挨拶は喪主が行うのが一般的ですが、「喪主の悲しみが深すぎて、挨拶をできるような精神状態にはない」などの場合は喪主以外が担当しても構いません。
Q3.精進落としのときの遺族挨拶はどんなことを言えばいい?
A3.精進落としのときの遺族の挨拶は、
・葬儀を滞りなく終えられたことのお礼
・ささやかな食事の席を用意した
・故人のことを話すなどして、ゆっくりと過ごしてほしい
の3つの要素を入れ込んだものとするとよいでしょう。
なお精進落としの席を終わらせる場合は、
・参列してくれたことのお礼
・そろそろ時間である
・これからも変わらぬ付き合いをしてほしいという希望
・決まっていれば、四十九日法要の日程
を含んだ挨拶にするとよいでしょう。
【受付編】
受付業務を頼まれた場合、たとえ故人と血がつながっていなくても喪家側の立場で応対していく必要があります。
Q1.記帳をお願いするときの案内はどうすればいい?
A1.一礼して参列者をお迎えして、「ご記帳をお願いいたします」と伝えます。住所なども記載してもらうようにしますが、断られたなら無理強いをすることは避けます。
Q2.受け取ったときの挨拶はどうする?
A2.「ありがとうございます、承ります」などのようにお返しすればよいでしょう。なお香典返しや会葬御礼を即日返しで受け付けで渡す場合は、「こちら、どうぞお持ちください」などのように言ってお渡しします。
【参列者編】
Q1,受付での挨拶はどのようにすればいいのか知りたい
A1.受付の人は、ご家族ではない場合が多いといえます。またほかの人もやってくるので、「この度はご愁傷様です」「こちら、よろしくお願いいたします」などのように簡単に挨拶するだけに留めておくとよいでしょう。
Q2.ご家族への挨拶、失礼のないようにしたい
A2.仲が非常に良かったり、ご家族の方から話したいと言われたりした場合を除き、簡潔に済ませるようにします。ご家族には決めなければならないことがたくさんありますし、心労もあるからです。
「(故人)さまの安らかな眠りをお祈りしております」などのようにどの宗教・宗派でも使える言葉でお悔やみを述べるのも良いのですが、「この度は……」とだけ言って下がっても構いません。
訃報を知らせる、訃報を受けた! そのときの対応方法
最後に、「電話で訃報を知らせる、受けたときの対応方法」について簡単に解説していきます。
知らせる側になったときは、
・だれが亡くなったか
・通夜や葬儀の日程や、会場について
・家族葬か、そうではないか
・(参列してほしい相手の場合は)参列してほしい旨
を簡潔に伝えるようにします。
訃報を受けた場合は、
・まずは訃報を知らせてくれたことへのお礼
・日程と会場の復唱
・(参列を打診された場合は)できるかぎりその場で行く/行かないの意思表示
・体や心を労わって過ごしてほしい旨
を、こちらも簡潔に伝えます。
訃報は、「とにかく早く、間違いがなく、知らせる必要がある人すべてに」伝える必要があるものです。そのため、知らせる側も受け取る側も、簡潔に済ませることが求められます。
「言葉のマナー」は、お互いを思いやる気持ちからできたものです。これを知り、相手のことを思いやった言葉を選びたいものですね。