火葬する時の注意点。ペースメーカー、体内金属、人工関節などの埋め込みは必ず葬儀社に連絡を!
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医療の発達に伴い、さまざまな人工医療機器が体内に装着されるようになりました。心臓ペースメーカー(以下ペースメーカー)は不整脈や心臓に疾患を持つ方のサポートをしてくれますし、人工関節を埋め込むことで痛みが取れて満足に歩行ができるようになるなど、私たちの健康や長寿に多くのメリットをもたらせてくれます。
しかし、このような体内に埋め込まれた医療機器が、火葬時には思わぬ被害をもたらすこととなるのをご存じでしょうか。爆発による遺体の損壊だけではなく、火葬場の職員や火葬炉にも甚大な被害を出す恐れがあるのです。この記事では、主にペースメーカーを中心に、医療機器を体内に埋め込んだ方の火葬の注意点について解説していきます。
もくじ
ペースメーカーの火葬はとても危険
まずはペースメーカーの火葬がどれだけ危険かについて見ていきましょう。
ペースメーカーとは
心臓ペースメーカーとは、心臓が本来の働きをできなくなった時に、心臓に代って電気パルス(一定の幅を持った電気信号の波)で心筋を刺激することで、本来必要な心収縮を発生させる医療機器のことです。
ペースメーカーは、本体とリードから構成され、本体には電子回路とリチウム電池が収納ケースに収まっており、心臓近くの鎖骨の下あたりに埋め込まれます。
一般社団法人日本不整脈デバイス工業会(JADIA)によると、2022年の1年間でペースメーカーを体内に埋め込んだ方の人数は51,271人だそうで、全国で50万人前後の患者がいると言われています。今後も国内でのペースメーカー装着患者の総数は増加していくことが推測されます。
ペースメーカーを火葬すると爆発する
ペースメーカが埋め込まれたままの遺体を火葬すると爆発を起こします。多くの電池が高熱によって破裂するのと同様に、ペースメーカーに内蔵されているリチウム電池も火葬炉内の熱で破裂してしまうのです。リチウム電池の融点は179℃、沸点は1317℃です。リチウム電池は約180℃で、ペースメーカー本体を覆うチタンという丈夫な金属は、600℃から800℃の間で破裂すると言われています。
国内の火葬場を調査した結果、火葬炉内でのペースメーカの破裂音は、火葬開始から15分から20分経過後、火葬炉内の温度が400-600℃の時に多く発生します。これを受けて、多くの火葬場では800℃に達する30分以内、破裂が納まるまでは小窓の開閉を行わないことで安全対策としているようですが、これとて決して充分な対策とは言い切れません。
爆発が引き起こすさまざまな弊害
火葬炉内でペースメーカーが爆発を起こすことで、次のような弊害がもたらされます。
ご遺体の損傷
ペースメーカーが爆発を起こすことで、まず何より、遺体そのものが激しく損傷します。ペースメーカーは鎖骨の下あたりの比較的浅い部分に埋め込まれます。火葬炉内が高熱化することで激しくペースメーカー本体が破裂し、埋め込み箇所付近の鎖骨や肋骨が損傷するのです。それだけにとどまらず、破裂を起こしたペースメーカの破片が皮膚を突き破って体外に飛び出す、焼骨や肉片もあたりに飛び散るなどの証言もあります。
日本人は、火葬後の遺骨をお墓や納骨堂に収蔵して、故人や先祖を末永く大切にする文化を持ちます。だからこそ、日本の火葬は、ただ火にくべるだけでなく、きちんと骨上げができるように、きれいに、丁寧に仕上げます。であるだけに、損傷してしまった遺骨を見た遺族が悲しみに暮れる姿は、想像に難くありません。
火葬炉の損傷
破裂したペースメーカーは、火葬炉そのものにも損傷を与えます。イギリス王立医学界による2002年の報告では、火葬中にペースメーカーが破裂した最初の報告例(1976年)の中で、火葬炉の壁に、指の大きさほどの径、深さ1.3 ㎝の穴が空いたとしています。
また、日本環境斎苑協会が平成24年度に行ったアンケート調査によると、総回答数に対して11.8%の火葬場で、耐火物、炉壁セラミック、炉内台車、ロストルなどの設備が損傷を受け、また職員にも負傷があったとしています。ペースメーカーの破裂の威力はすさまじく、炉の分厚い強化ガラスにさえヒビを入れることもあるのだそうです。
火葬場職員への危害
ペースメーカーの破裂は火葬場職員にも危害を与えます。ペースメーカーの装着を知らなかった火葬場職員が、火葬炉の裏から小窓を開けていたために、爆発による破裂物でケガを負ってしまった例は数多くあります。また、爆発の瞬間、炉内の炎が窓の外に向かって激しく放出される危険性も考えられます。
ペースメーカーがある場合の火葬場の対応
ペースメーカーを装着している遺体であっても、多くの火葬場は火葬を受け入れてくれます。ただし、平成26年度の日本環境斎苑協会のアンケート調査では、ペースメーカーの取り外しができていない遺体の火葬を拒否した例が16件(全体の1.4%)あったそうです。ごくまれにではあるものの火葬を受け付けないところもあるということです。
火葬場側の本音としては、事前にペースメーカーを取り外してほしいものの、やむをえず火葬を実施しているというのが実情のようです。ペースメーカーが埋め込まれた遺体の場合、破裂音がやむまで中をのぞき込まない、防護服、手袋、マスクなどを着用するなどして対応しています。
ペースメーカー除去に対する病院の対応
もしもペースメーカーが火葬の際にさまざまな危険を及ぼすのであれば、事前に医師に取り除いてもらえばいいのではないかと思いがちですが、話はそう簡単ではありません。実際に、火葬時のトラブルやリスクを回避するために、死亡後の患者の体内からペースメーカーを取り外す医師もいますが、これはごく少数派のようです。
どうしてペースメーカーの除去が広く行われないのか。理由は主に3つあります。
●ペースメーカーを装着した病院と、死亡時の病院が異なるため
●装着は医療行為であるため費用負担を保険で行われるが、撤去は保険が適用されない可能性があるから
●ペースメーカーの除去に時間がかかり、葬儀の実施が遅れるから
とある医療系メディアの医師へのアンケート調査では、36.5%の医師が死亡時にペースメーカーを除去していると答えたのに対し、63.5%の医師は除去していないとの結果が出ています。
ペースメーカーがある場合は必ず葬儀社に連絡を!
ここまで、ペースメーカーを埋め込んだ遺体の火葬には大変な危険が付きまとうことがお分かりいただけたかと思います。すさまじい威力で爆発をし、遺体、火葬炉、火葬場職員に損害や危害の恐れがあるということです。
また、事前に病院に除去を依頼しても必ずしてもらえるとは限りませんし、ごく一部の火葬場では火葬そのものを受け付けない事例もあります。遺族が徹底すべきは、ペースメーカーを埋め込んでいる遺体の場合は必ずその旨を葬儀社に伝えることです。葬儀社と火葬場は密に連携を取って、故人の最後の旅立ちが安らかなものになるよう務めます。事前にペースメーカーが埋め込まれていると分かってさえいれば、たとえ火葬炉内で破裂が起きたとしても、被害は最小限に食い止めることができます。万が一火葬中に爆発を起こし、仮に誰かがケガでもしようものなら、何よりも一番哀しむのは故人本人ではないでしょうか。
もう一度申し上げます。ペースメーカーを埋め込んでいる遺体の場合は、必ず葬儀社にその旨を伝えて下さい。火葬に関して分からないこと、お困りごとがございましたら、西田葬儀社までご相談下さい。